「ソーシャルワーク4団体合同研修会報告」

iwatemsw2005-11-24


 

                  報告者 和光学園 白畑 勇

 平成17年11月19日(土)、いわて共済ビルで岩手県医療社会事業協会、岩手県社会福祉士会、岩手県精神保健福祉士会、岩手県ソーシャルワーカー協会のソーシャルワーク4団体合同研修会を行いました。各団体の会員の他、一般参加もあり100名を超える参加者で会場がいっぱいになりました。
 自立支援とソーシャルワークをテーマとして、「介護保険法改正」と「障害者自立支援法」の行政説明、さらに「自立支援とソーシャルワーカーのあり方」と題して講演を行いました。



行政説明1『介護保険法改正について』
岩手県保健福祉部長寿社会課 熊谷政則氏

 パワーポイントを使って、これまでに国から示された資料にもとづいて説明。
 水際で要介護を防ぐという観点から予防重視型システムへの転換を図り、老人保健事業、介護予防・地域支え合い事業、介護保険事業というこれまでの制度・事業が一貫性や連続性に欠けていたという制度間の問題も改善する。
 新しく創設される「新予防給付」と「地域支援事業」で総合的な介護予防のシステムを作り上げる。 
 要支援、要介護1を対象にした「新予防給付」のメニューは、運動器の機能向上、栄養改善、口腔機能の向上。これらは、国内外の研究などから介護予防の有効性が期待されるもの。実施にあたっては19年度末までの経過措置が設けられたが本県はすべての自治体で18年度から実施予定。「地域支援事業」はこれまで老人保健事業や介護予防・地域支え合い事業等で実施していた事業のうち介護予防に資する事業を再編。要支援、要介護状態になるおそれのある高齢者を対象に実施。メニューは新予防給付にプラスして閉じこもり予防・支援、認知症予防・支援、うつ予防・支援。実施には経過措置なし。これまでの介護予防が「やりっぱなし」という反省にたち、今後は効果を住民に説明し、アウトカム指標(成果)を設定する。
 地域包括支援センターは、できるだけ要介護状態にならないような「予防対策」→「介護サービス」→「医療サービス」を高齢者の状態変化に応じ切れ目なく提供し、必要な援助、支援を包括的に行う中核機関。業務内容は、地域におけるネットワーク構築、実態把握、総合相談、権利擁護。介護予防が成功するかどうかは地域包括支援センターの力によることころが大。将来的には児童や障害も包括した形の総合的なセンターになっていく可能性もある。


行政説明2『障害者自立支援法について』
岩手県保健福祉部障害保健福祉課担当課長 菅原博氏

 パワーポイントを使って、自立支援法における事業体系、地域生活支援事業の対応と課題、介護給付・訓練等給付支給決定手続き、利用者負担および減免制度、事業所が受け取る報酬、自立支援医療について、法施行スケジュールなどについて説明。法の施行が来年4月と10月の2段階であること、経過措置が平成24年3月まであること、児童福祉法改正があること、細部は政省令で規定されるなど現時点では不明な部分が多い。
 新体制による事業者制定の例として、通所授産などで複数のニーズを持つ障害者を抱えている場合、「就労移行支援」「自立訓練」「生活介護」それぞれの事業を行う多機能型事業所として指定を受ける。最低受け入れ人員は合計で原則20名以上。
 福祉ホームなどは地域生活支援事業に移行するが、複数の市町村から利用がある場合には、それぞれの市町村と契約をする形になる(費用負担をどうするかなど課題も多い)。
 介護給付の障害程度区分は、6区分ほどになる見込み。訓練等給付は、点数化し扱いの違いを設ける。非該当扱いにはしない。
 利用者負担の定率負担部分(1割)についての上限はいくらサービスを使っても40,200円打ち止め。 
 住民基本台帳上の世帯の所得に応じて減免あるが、世帯の範囲については特例あり。施設の食費・住居費の個人負担の減免の例として収入が2級年金66,000円のみの場合で食費・住居費が58,000の場合には、収入からその他生活費として25,000円は残し、41,000円の負担。収入月66,000円以下は定率負担ないため、月25,000円は残ることになる。金額の根拠は、年収200万円以下のその他生活費の平均が21,000円であること。
 食事提供方法の規制緩和として、施設外調理による外部委託を認めることになった。
 食費・住居費の利用者負担で法施行の18年3月末までに発生する作業として、徴収する食費・住居費の額を事業所運営規定で定め振興局に届け出ると共に、利用者には規定をもとに契約をすること。
 自立支援医療になることで経済的に最も影響を受けるのは知的障害者の施設入所者措置医療費であり、自立支援医療の対象にならず、県単独の医療費助成にも該当しない療育手帳Bの場合は3割負担になる可能性がある。


『自立支援とソーシャルワークのあり方』
法政大学現代福祉学部 岩崎晋也先生

・ 「自立」は、近代市民社会がその構成員に要請する規範であること。
・ 「自立」を求める社会が「自立」できない存在として「子ども」「高齢者」「障害者」などのカテゴリーを作り出し、排除したこと。
・ 「自立」できない存在に対する政策としては、治安対策、文明国としての対面から、社会的保護や矯正(感化・教育・治療)が行われたこと。さらに二度の世界大戦を経て社会全体の集合的利益の観点からより積極的な自立支援(リハビリテーション)に展開したこと。
・ 日本では平成16年の障害者基本法改正で「この法律は自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本的理念を定め〜(中略)〜 もって障害者の福祉を増進することを目的とする」(下線部改正箇所)、自立概念の広がりを見せたが、障害者自立支援法は財政負担抑制を目的とする「自立」支援の懸念あり。
・ 国家の集合的な利益を前提とした「自立」支援だけでは、重度障害者への支援や「社会参加」への支援は積極的に位置づけることできず、限界があること。
・ その限界を乗り越える働きかけとして当事者運動と社会福祉実践(ソーシャルワーク)があること。
・ 当事者による「自立」の意味の問い直しとして、日本脳性マヒ者協会全国青い芝の会の活動やIL(Independent Living)運動による自立観の転換、知的障害者ピープルファースト運動、精神障害者の当事者運動などが障害を有していても多様な社会との関わり方ができることを主張している。
ソーシャルワーカーによる「自立」支援の意義は何か。経済的「自立」を中心とする自立支援政策を効果的に、かつ利用者の権利が擁護されるように実践すること。さらに当事者運動に専門職として側面的に支援しエンパワーメントすることが必要。
・ さらに、社会福祉実践を担うソーシャルワーカーは、排除され孤立しているマイノリティを支援し、排除を生み出している規範構造に働きかけるような実践が求められていること。新しいニーズに働きかけること、決して見捨てないことが必要。なぜならそうした実践は多様な価値が共存できる社会を形成・維持することに貢献できるからである。
・ 「自立」に限らず単一の価値で序列化された社会はいずれ硬直化して崩壊する。させないために「自立」の意味を豊富化すること。「自立」を否定するのではなく、多様な自立のあり方を提示し、そこに向けた支援のあり方を探ることも社会福祉専門職として重要な役割である。