ソーシャルワーク四団体合同研修会(H18.11.18)参加報告

野口裕二先生

                仙台保護観察所 小野寺栄進
                         (with Seiwa)


 平成18年11月18日(土)に、真新しい岩手県歯科医師会館を会場として標記の研修会が行われ、今年も100名を超える参加があった。

 4団体を代表して岩手県精神保健福祉士会 上川原幸男会長より、合同研修会も今年で3回目を数え、会を超えた交流と研鑽の場となって欲しいと挨拶があった。

基調講演「岩手県の保健福祉の現状とソーシャルワーカーへの期待」
                   岩手県保健福祉部長 赤羽卓朗氏

 岩手県の保健福祉関係費も膨大となり、行政施策としても拡大路線の限界を迎え、サービスの効率化・集中化が必要である。コスト面からも事後対応型から事前対応型の行政サービスの提供へ変えていく必要があるとして、以下について講演した。
鄯)セーフティーネットの構築…生活習慣病、自殺予防など。
ex.「脳卒中急性期病棟Stroke Care Unit(長野県)」…超早期からのパス策定とリハビリの実施、家族の参画が特徴。
鄱)地域力を活かす…課題解決能力を地域も身に付ける必要がある。
ex.「スノーバスターズ(沢内村)」、「傾聴ボランティア(久慈市)」、「ご近所介護ステーション(紫波町)」
・Market-outではなく、Market-inの概念。
・地域のニーズを教えてくれるのは、現場の方々(ソーシャルワーカーなど)!
・予算決定方法の工夫…アドバイザリー制度の導入。介入指導で良い活動へ育てる。
鄴)PDCA (Plan、Do、Check、Action)の導入
・特に利用者満足度のチェック。自己実現を支える、新しい行動が必要。
・包括支援センターによる、介護保険のチェック機能への期待。
鄽)即効性
ex.養父による児童虐待問題、ヒヤリハット事例集…失敗学。我々は何をするべきだったかを問う姿勢(命を守る)。
社会福祉法人の在り方…社会的使命は。施設運営のみならず、地域で待つ方への対応。
・独立した福祉事業団による、(優秀なスタッフ、地域の信頼関係を活かした)地域から求められる事業展開への期待。

 県行政の旧体質な枠を超えて、積極的な展開による新たな保健福祉づくりを目指す姿勢が伝わってきた。また、地域と行政の対等な連携を目標に、現場である我々も二―ズに沿った特色や工夫ある活動を提案し、実行することが大切と感じた。


特別講演「対人援助技術としてのナラティヴ・アプローチ」
                    東京学芸大学教授 野口裕二

 ナラティヴ(narrative=「語り」「物語」)は近年、注目を集めるモデルで、広く知られている個人モデル(精神分析、ストレングスモデル)やシステムモデル(ソーシャルアクション、エコロジカル)とは性格が異なる理論モデルである。ナラティブモデルの特徴として、①「言葉」とそれに伴う概念に注目するアプローチであること②個人や全体を大きな纏まりとして「言葉」で捉えていること、があげられる。
 セオリー(理論)が法則性など「2つ以上の要素間の一般的関係を示す」のに対して、ナラティヴは個別性、偶然性、意外性によってつくられる「具体的な出来事を時間軸上につないだもの」であるため、反論の余地がなく、わかりやすいなどの特徴がある。
 具体例を挙げると、ワーカーがクライエントの“話を聴く”こと=ナラティブに聴いていることであり、その内容を“問題解決に導く”=セオリーに当てはめる、と、援助過程の中でもこの二つをすでに使い分けていると言える。
歴史的にみるとアメリカでHartman(1991)が「言葉は世界をつくる(Words create worlds)」と発表した。これは、①現実は社会的に構成される(他者と共有することで現実となる)②現実は言語によって構成される③言語はナラティブによって組織化される(例:「エンパワメント」「ストレングス」という言葉を知り、視点が変わり援助が変わった)という内容であった。
つまり、「言葉」があることで「現実」の認識(見え方)が違って来るというもので、言葉が導入されることで今までの風景や事象が違って見えてくることから、行動や感性が変わり世界が変わる、という概念である。
また、「人は物語を生きる存在」とし、言葉や物語によって自らの存在を定めていくといった「現実組織化作用」(「このひとは“こういう人”」と繋がりで捕らえること)と「現実制約作用」(「こういう人」と思ってしまうと、それを修正するのは難しく、視点が固定化されやすくなること)の両面があり、その相互作用により現実が形づくられる。
 ナラティヴ・アプローチの実践では、問題の原因探しをするのではなく、現実の言語的成り立ちに着目し、そこに揺さぶりをかけ、新しい現実をともに創造する。例えとして、①内在化で対応できない場合、外在化する(「妄想さん」など)。②相手を分かった気になり、アセスメントをするのではなく、「無知の姿勢(not-knowing)」で他者の人生物語に(素直に)立会い、証人となる姿勢がある。結果のみに焦点を当て、「苦しいこと」に着目して働きかけを行うことが出来るソーシャルワーカーは、「問題解決のために“病名”を必ずしも必要としない」立場、とも言えるのではないだろうか。

 専門家の言説が「問題」を固定化、増幅し、クライエントを抑圧・支配している可能性を自覚し、知識や技法がクライエントのためでなく専門家の地位を守るためのものにならないように注意する必要がある。ナラティヴ・モデルは、難解に感じるが、日本でも古くから、言葉には霊力が宿り、人を表し、社会に影響を与えるという「言霊(ことだま)思想」があることを思い出した。  我々、専門家の一方的な判断が、クライエントの存在を規定し、束縛することのないように気をつけていきたい。

 研修会の開催にあたり、講師の先生、各会事務局、合同研修会実行委員、係員の方々に深く感謝いたします。
また、来年度も素晴らしい研修会が開催されるよう期待しています。